瀬戸内の小さな蔵から、世界の銘酒へ
呉市の東、瀬戸内海と三つの山に抱かれた静かな町、仁方(にがた)。人口わずか数千人のこの地に、明治8年(1875年)創業の酒蔵「相原酒造株式会社」があります。彼らが醸す銘酒「雨後の月」は、長らく地元で愛される小さな地酒でした。しかし現在、その名は広島県内にとどまらず、全国、そして世界へと轟いています。
その飛躍を証明するのが、世界的に権威ある日本酒審査会「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)SAKE部門」での評価です。2024年に「純米大吟醸 雨後の月 䨩 RAY(れい)」が、続く2025年には「特別純米 雨後の月 十三夜」が、各カテゴリーで数銘柄しか選ばれない「地域トロフィー」を2年連続で受賞。
小さな蔵はなぜ、世界的評価を得るまでに成長できたのでしょうか。そこには、一つの確固たる哲学と、数々の受賞が裏付ける信頼の物語がありました。
妥協なき「品質第一」という覚悟

相原酒造の飛躍は、1985年に遡ります。きっかけは1本の金賞酒でした。
それまで鑑評会とは無縁でしたが、思いがけず金賞を受賞。
吟醸酒ブームの追い風もあり、蔵のすべての在庫がわずか1ヶ月で完売するという出来事がありました。
経営が楽ではなかった当時、「良いものを造れば売れる」という事実は大きな希望でした。
しかし、4代目蔵元の相原準一郎氏は当時の酒造りに限界も感じていました。
「タンクで常温保存していた酒は味が濃く、熟成で老いていて飲みにくい。もっと軽やかで上品な、良い香りがする酒を造りたい」。
そう考えた相原氏は新たな杜氏を迎え入れ、設備を刷新。酒造りの方針を一から見直します。
そこで打ち立てたのが、次の3つの原則です。
- 全品を大吟醸造りで醸す
- 全品を冷蔵保存する
- 最上の原材料を使う
品質を保つために大型の冷蔵倉庫を新設し、搾り部屋もいち早く冷蔵対応へと改装。細部まで温度管理を徹底しました。原料へも妥協はありません。兵庫県特A地区の山田錦や岡山県赤磐産の雄町、希少な愛山など、県内外問わず最高峰のものに限定しました。
「すべての日本酒を大吟醸並みの手間で」。
量や効率や手軽さよりも「どうすれば美味しくなるか」を最優先する、「品質第一」への転換でした。
国内11年連続金賞・世界一位から、IWCの舞台へ
品質への妥協なき姿勢は、着実に数字と成果に表れました。
2001年には平均精米歩合・特定名称酒比率などで県内トップに立ち、全国新酒鑑評会では2010年酒造年度から11年連続金賞(※2019年度はコロナ禍で選定中止)という快挙を達成します。
さらに” 世界一美味しい市販酒を決める品評会”「SAKE COMPETITION」においてもグランプリを複数回獲得するなど、出品酒だけでなく日常の市販酒にまでその品質が行き届いていることが高く評価され、県内外からの引き合いも急増。全国区のブランドへと成長を遂げました。
国内での評価を不動のものとした相原酒造が次に見据えたのは、世界という舞台でした。
IWC「SAKE」部門。国内の品評会とは異なり、審査員は世界十数か国から集まり、それぞれの食文化や嗜好を背景に評価を下します。
「国内の品評会ではブラインドテイスティングのみで基本的に減点法であるため『研ぎ澄まされた美味しさ』が重視されますが、IWCではまた違う美味しさが問われます」と相原さん。
海外の審査員が求めるのは、日本酒の伝統的な価値観だけではありません。ワインやその他の醸造酒と比較した時の個性、料理とのペアリングの可能性、そして何より「美味しさ」そのもの。

その舞台で、2024年、「純米大吟醸 雨後の月 䨩 RAY(れい)」が、純米大吟醸部門で各カテゴリーの最高賞であるトロフィーに次いで、高い評価を得た銘柄に授与される「地域トロフィー(広島・純米大吟醸トロフィー)」を獲得。
さらに2025年には、「特別純米 雨後の月十三夜」もまた、「地域トロフィー(広島・純米トロフィー)」を受賞しただけでなく、コストパフォーマンスの優れた日本酒に授与される「グレートバリューサケ」と呼ばれる特別賞もW受賞。
2025年の審査会は、387社から1,476銘柄がエントリーされ、この出品酒の中からグレートバリューサケに選ばれたのはわずか6銘柄。広島県内の酒蔵としては、初受賞となる快挙でした。
IWC受賞酒は外務省の在外公館リストにも登録され、相原酒造の酒は今や外交の場でも振る舞われています。
「海外に展開したい蔵は、IWCなどのコンペティションに参加することに意義はあるし、海外展開へのはずみをつけるきっかけにもなると思う」と相原さんは語ります。
広島の風土を体現する酒、2026年地元開催への想い
現在、「雨後の月」は広島県内はもちろん、全国の日本酒専門店や百貨店で扱われ、海外の日本食レストランやワインショップでも見かけることができます。受賞という実績が流通網の拡大を後押しし、さらに多くの人に届く酒となりました。
この「雨後の月」の繊細で透明感のある味わいを根底で支えているのが、広島という土地がもたらす「水」の恵み。仁方から三原にかけての沿岸地域は花崗岩層の土壌であり、全国屈指の「軟水」が得られます。相原酒造は、瀬戸内海国立公園・野呂山からの清らかな伏流水を仕込み水に使用。明治31年に安芸津の三浦仙三郎氏が確立した「軟水醸造法」という広島の伝統を受け継ぎ、ミネラル分の少ない超軟水から芳醇淡麗な酒質を導き出しています。
「雨あがりの空に、冴え冴えと光輝く月が周りを明るく照らす」――『随筆 自然と人生』の一節から名付けられた「雨後の月」は、まさにこの広島の地だからこそ生まれる、澄みきってうつくしい酒なのです。

そして2026年、SAKE部門設立から20周年という節目の年に、IWC審査会がこの広島で開催されます。
広島・西条は、京都・伏見、兵庫・灘と並ぶ日本三大銘醸地の一つであり、広島の地は、軟水醸造法を生み出した土地として、日本酒の歴史に大きな足跡を残してきました。日本唯一の国の研究機関「酒類総合研究所」があるのもこの広島です。
「IWCが地元広島で開催されることは、本当に光栄です」と相原さんは語ります。
広島の歴史と軟水の恵みを体現する「雨後の月」が、まさにその広島で開催される世界的コンペティションに挑む。
自信をもって仕込んだ最高の酒で今年も審査会に挑戦します。受賞が開いた世界への道。その先に、さらなる飛躍が待っています。
世界が称賛した一杯と出逢う

「特別純米 雨後の月 十三夜」は、山田錦を使った特別純米酒。米の旨味がしっかりと感じられながら、後口はすっきり。「純米大吟醸 雨後の月 䨩 RAY(れい)」は、最高級の兵庫県産山田錦を7%まで磨き、超高精米でしか実現できない洗練された吟味と深い余韻を愉しめる酒です。
白身魚の刺身や塩焼き、野菜料理など繊細な味わいの料理と好相性。透明感のある上品な酒質が、料理を引き立てます。フルーティーで飲みやすく、日本酒初心者から愛好家まで幅広くおすすめできる酒質です。
呉・仁方の小さな蔵から始まった物語。受賞が証明した品質。そして、世界へと広がる「雨後の月」の未来。150年続く蔵の挑戦は、これからも続きます。

相原酒造株式会社
〒737-0152 広島県呉市仁方本町1丁目25番15号
創業:1875年(明治8年)
代表銘柄:雨後の月
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